あいつが何も言わないものだから、
危うく『今日』という日をいつものままに過ごしてしまうところだった。
確かに、自分は気がきく方じゃない。
むしろ、ニブいと言われる方だ。
(これは比婆王の言葉)
中には、天然なんて言ってくれる奴もいる。
(迦楼羅王なんかがその代表……実は、この言葉はあまり好きじゃない)
まぁ、それに言い返すことなんてできやしないんだ。
どうせ、口で迦楼羅王に勝てる筈もない。
『今日』のことだって、女官たちにさんざん探りを入れられて、
それがどうしたんだって訊いて逆に教えてもらったくらいだ。
このことを勘付かれたら、迂闊な奴って言われるんだろうな。

夜叉王はモテる。
女官達だけでなく、年下の神将候補生らにも慕われている。
月にたとえられるように容姿も整い、人当たりも柔らかければ、候補生らの面倒見も良い。
これで、彼を嫌う奴はそうそういないだろう。
だが、八部衆内では違う。
紅一点の那羅王は、人の外見などに頓着しないらしい。
他の連中にしても、彼の本性を間近に見てる以上、幻想は抱けないと言う。
「俺は、お前があいつと親友だっていうのが謎なんだよ。性格合わなそうなのにさ。」
比婆王に言われた言葉に、何度も首を傾げたものである。
自分にとって、彼の傍らはとても居心地の良い場所だ。
言葉にしなくとも、相手の考えが手に取るように分かる。
彼になら、すべて預けられる。
自分の命も……
「そうでもないんじゃないの? 二人とも、結構似てるわよ。」
特に、己の命を顧みない戦い方が……と、見透かしたように付け加えられた。
「ま、そこら辺は、そちらの親友たちにも当てはまるんだけど。」
迦楼羅王の視線をたどると、その先には天王と龍王が何やら熱く語り合っていた。
毎朝の早朝訓練の反省と考証についてらしい。
日常の……風景。

神将である以上、戦いと生死は常に傍らにある。
いつか、自分たちにも、別れのときが来るのだろう。
何度転生を繰り返そうと、お前が生命を得た日を特別に思う。



>Post Script
>キリリク以外で
HP用に書き下ろしたのは初めてかもしれない。
>お誕生日ネタです。
>人間界ネタも考えたけど、どうもこちらの方が書きやすくて……(苦笑)
>修羅王の視点からでした。

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