『絆』














走馬灯がと人はよく言うけれど、あれは今生で一番長い一瞬だったと思う。
今生と言い切ってしまうのは微妙なところだし、親友は怒るだろう。
一度、凱が自身の肉体を失った時のことだ。
他の誰よりも傷つけてしまった、かけがえのない親友を守れた。
転生してからの経緯はともかく、守れた結果を誇りに思う。
そう考えていられる時点で、いわゆる普通の状態を逸脱しているのだが、仕方ない。
半覚醒の状態ではあるが、魂は親友の体にお邪魔している状態だ。
スクリミール騒動で、新たな体を得はしたが、魂という点では秋亜人に寄り添っている。
忘却の転生ではなく、意識と記憶を持ったまま。
今でも、親友と体を共有している。
意識の表に出るのは、親友の意識がなく危険が迫っているときだけ。
秋亜人の体ではあるが、凱の意識の同居を許容してくれていた。
だから、凱が出ようと思えばいつだって表に出ることは可能だった。
だが、それでは秋亜人の成長を妨げてしまうかもしれない。
というわけで、凱は以前から得意だったイメージトレーニングに励み、日々を送っていた。
たまに訓練結果を試したくなり、秋亜人が完全に眠りに就いてから体を拝借することはあるが。
少なくとも、深夜残業帰りのレイガにしかバレていない。 他の目撃者は、秋亜人であると信じて疑っていなかった。
人は、目から入る情報に騙される生き物だという。 レイガには、気配だけで察知されてしまったが。
彼の性格と、遠隔で情報収集する技の特性によるものだろう。 今日も、親友が眠ったのを見計らってお邪魔させてもらうことにした。
姉や周囲が先週から挙動不審なので、自主的に今週の予定を出張で埋めていた凱である。
親友の体を拝借したところで、手紙が置いてあることに気付いた。 宛先は凱になっている。
間違いない。
これは秋亜人の字だ。
おめでとうと祝う言葉で、今日が黒木凱として生を受けた日であることを思い出した。
直接言葉を交わせないことがもどかしい。 手紙の続きに、ありがとうと返事を書き足した。
今度、交換日記のような物を用意するのもいいかもしれない。
秋亜人のことだ。
途中から絵日記にされてしまうかもしれないが、そんな未来予想が楽しくて仕方ない凱である。

<End>



>Post Script
>恒例、お祝い?な誕生日SS。
>秋亜人視点で書き始めようとして、夜叉王を卒業した凱の台詞が出てきてしまいました……


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