『その声で呼んでほしい』














窓から外を眺めながら、ため息をつく姿があった。
その横顔は、なかなかに整っていることもあり、絵になると評されるに相応しい光景である。
ただし、そのため息の原因を知らない者限定であるが……
現在、テーヴァ神軍は裏切り者の討伐で右往左往している状態だ。
調和神ヴィシュヌを石化した敵は、転移により天空殿から逃亡した後、再び天空殿に向かって来ていることになっている。
その敵が、夜叉王の目下の悩みの種だった。
その悩みはひとつ。
敵対している親友が彼の名を呼ぶ回数である。
声に出しても出さなくても、呼んでさえくれれば、いつもガイの元に届いていた。
その回数が、日に日に減ってきているのである。
敵対して命を狙う立場ではあるが、親友に名を呼んでもらいたい。
それは夜叉王の喜びであり、モチベーションの元だった。
己の存在する意味の確認でもある。
呼ばれるということは、存在を求められるということだ、
彼に存在を望まれ、あの声で呼ばれなければ、やる気が出ないではないか。
実に由々しき事態である。
「夜叉王、心の声が全部外に漏れているぞ。」
みっともないと苦言する上司の声をきっぱりと無視した。
あの中間管理職は、上司に名を呼ばれることが嫌いらしい。
呼んでほしい。
どのような感情にしろ、心の込められた声で。
人間界で、己が生まれたという記念日に。
ここに存在していいのだと。
呼んでほしい。

<End>



>Post Script
>凱というか、夜叉王の誕生日祝いの小話です。
>最近、仕事場がちょっと荒み気味なので、職場?話……になるのかな。


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