『収穫祭』
今、人間界は秋である。
秋亜人の生まれ育った日本の辺りは……であるが。
南半球は気候が逆になるから、春だろうか。
少なくとも、秋亜人の感覚でいうと、今は秋である。
常春のような天空界に身を置いていると、忘れがちになってしまう感覚だ。
そして、秋といえば美味いものだった。
野菜に果物、肉に魚……
季節の食べ物に事欠かない点で、とても良い季節だ。
ところが、この所の異常気象のせいか、今年の人間界の様子は少しおかしい。
記憶通りならば、そろそろ秋亜人の誕生日。
十月十日ともなれば、彼岸花も盛りを過ぎる頃合いだった。
それなのに、今年はこれからとばかりに赤々と咲き誇っている。
燃えるような鮮やかな花色だし、葉が生える前に花が咲く姿は少し奇妙な心地がして目を惹かれる気がした。
小さな頃、惹かれるままに地面から引き抜こうとして止められたことがあった。
根の方に毒があるのだという。
教えてくれたのは凱だったろうか。
意外と、そういった雑学はある祖父だったかもしれない。
ともかく、綺麗なだけで見てるしかない花では、秋亜人は満足できなかった。
どうせなら、綺麗で美味い方がいいに決まっている。
秋の味覚といえば、栗に柿に南瓜……梨もいい。
魚ならば……と思い描こうとしたところで、秋亜人は背後に人の気配を感じた。
よく見知った気配である。
ただ……怒っている気がする。
「シュラトちゃん、ちょっといいかしら?」
声と気配の主は、レイガだった。
「あれこれと思い巡らすのも、懐かしく思うのも、別に悪いとは言わないわよ。
故郷を懐かしく思うのは、誰にだってあるものね。
でも、これはさすがに無いでしょ!」
恐る恐る振り返ると、秋亜人の背後には、さっきまで思い描いていた物が現実となっていた。
天空殿の床から唐突に生える彼岸花。
床を覆い尽くす大きな葉と蔓の合間に見える、人の頭より大きな南瓜。
林立する栗と柿の木の根元には、それぞれの実が所狭しと散らばっていた。
無意識に創造神の力の一端を使って生み出してしまったものらしい。
「さあ、お片付けの時間よ。」
「片付けじゃなくて、せめて収穫って言って欲しいな……」
花は花瓶を借りるなりして飾り、実は後で食べるつもりのようである。
<End>
>Post Script
>秋亜人の誕生日祝いの小話です。
>実りの秋ということで。
>今年、曼珠沙華公園に行こうと思ったのだけど、見頃がズレて行けなかったからここで花見。
>魚まで思い描いてたら、背後でびちびちしてた……のかな?
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