『すれ違い、色々』














秋亜人が一生懸命に何かを指折り数えている。
せっかくこうして逢えているというのに、意識をよそに取られているのは、何となく面白くない。
ちなみに、ここは二人の精神が作り出した空間らしい。
何故かいつも、海を背景に崖っぷちに腰かけることになっている。
背景の海も、海外の雄大な大自然というより、鎌倉か伊豆半島の海の雰囲気があった。
恐らく、ベースは秋亜人の意識なのだろう。
最初こそは、素っ裸でここに放り込まれていたが、隔意がない程度に節度ある距離感ということで、
今では薄布を纏うようにしている。
秋亜人の指が止まった。
どうやら、数え終わったらしい。
「凱……俺たちの誕生日の間の日数は121日だ。
 この122日の差は、何年経っても変わらないよな。」
植木算ではないが、間と差で1日をきちんとカウントし直してくれた秋亜人に成長を見た。
思わず、目頭を押さえそうになったのは内緒だ。
一緒に宿題をして、手を焼かされた日々が懐かしい……じゃなくて。
「秋亜人……計算大嫌いなのに、わざわざ数えてくれたんだね。」
暗算できなくて、指折り数えていたのだと分かった。
「だから、最後の一年を日々大事に過ごそうぜ。」
秋亜人の突然の言葉に、凱が首をひねる。
何が『だから』なのか。
秋亜人の思考の過程は、こういう風に飛ぶことが珍しくない。
起承転結ではなく、起結なんてことはざらだ。
「『最後』?」
「そう、三十路最後の年。」
『三十路』の読み書きができて意味も分かるように……じゃなくて、凱は秋亜人の様子をうかがう。
何を考えて、この発言になったのかと。
誕生日の関係で、先に年を取る凱へのあてつけではない。
秋亜人の内に、そんな考えはこれっぽっちもない。
それは断言できた。
「だって、四十歳になったら迷っちゃいけないんだろ?
 色々悩んだり考えたりしていいのは、今年までなんだぜ。」
原因は、単純なところからきていたのだと分かった。
「秋亜人……『不惑』になったからって、迷っちゃいけないなんて決まりはないんだよ。」
「そうなのか?」
「そうなんだ。」
強く言い切ると、少し怪訝そうにはしていたが納得したようだった。
昔から、こういう知識系で凱が言い切れば、秋亜人は信じてくれる。
「まさか、それを言うだけの為に、自分で天空殿の柱に頭を強打してまでここに来た……んだよね。」
秋亜人ならやる。
絶対にやると言い切れてしまうのが、凱はちょっと切なかった。
「当たり前だろ。そうでもしないと、俺はお前に逢えないんだぜ。
 こうして逢っていることだって、目を覚ましてみるとはっきりとは覚えていられない。」
そう言って、凱の手を握った。
「ここにはお前が居る。俺も居る。
 まだ修行が足りなくて駄目だけど、俺はここでない所でお前とこうして触れ合えるようになりたい。
 否、絶対になってみせるぜ。」
その心意気はとても嬉しい。
ただ、神将が気を失うほどの衝撃を何度も頭部に与えるのは、あまりおすすめできなかった。
「無理だけはしないでくれよ、秋亜人。」
「大丈夫、任せとけ!」
秋亜人の大丈夫は、無理が駄目なら、ちょっとばかり無茶してもOKという意味だろう。
無理・無茶が標準装備なだけに、安心できない凱だった。





<End>



>Post Script
>凱の誕生日祝いの小話です。
>二人きりなのに、うちらしく全く甘くない仕上がりに……
>秋亜人に『不惑』の意味を間違えた意味で教えたのは、某同僚らしいです。



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