『とりかえばや物語』
クウヤは目を擦り、目の前のものを見つめ直した。
もう少し正確に言うと見上げてくる漆黒の瞳を見下ろした。
似ている……形作る個々のパーツは。
本人と言っても過言ではないだろう。
ただし、年齢を除いては。
背の高さは、クウヤの腰辺り。
自身の弟たちの姿を脳裏に浮かべ、目の前の子供と比べてみる。
個人差はあるだろうが、十歳には届いていないだろう。
だが……
「シュラト……ですか?」
疑問形になるのは、外見年齢の差だけではない。
光流の色が違うのだ。
シュラトの色も見えるのだが、ベースはむしろ彼に近い。
案の定、首が横に振られた。
「では、あなたは夜叉王ですね。」
今度はこくりと頷かれる。
「今の心境をお聞きしてもよろしいですか?」
「何故、そんなことを言わなければならない?」
「後学の為……といいますか、要するに、シュラトがあなたの予想を超えた考えに基づき、何がしかの思いつきを実行してしまったのでしょう?」
まったくもってその通りだ。
シュラトは、段階を一つずつ積み上げて思考することを苦手としていた。
だから、彼が熟考した事柄であっても、他者からみれば突飛な思い付きとしか考えられないことは多々あった。
優れた直観故に事無きをえてきたが。
「秋亜人のようになりたいと思ったことはありましたが、秋亜人自身になりたいと願ったことはないんですけどね……」
しかも、今の姿は、人間界で初めて出会った小学校の入学式の頃を写している。
まだ、何も知らなかったあの頃。
やり直したいと、お互いに心の隅に抱え込んでいたのかもしれない。
「それならそうと、彼に言ってあげるといいのではありませんか。」
でないと、シュラトなりにわだかまりを解消しようと、あの手この手でアプローチを続けることになる。
今回の中身入れ代わり現象も、シュラトなりのアプローチの結果だ。
「……そうですね。少なくとも今回のっようなことは二度と繰り返さないとは伝えます。」
今日は秋亜人が生まれてきた日なのだ。
本人に祝いの言葉を伝えたいではないか。
そんなことを考えているうちに気が遠くなり、秋亜人との精神世界に突入する前兆が凱を襲う。
精神世界は、外部からは隔絶された空間である。
秋亜人に今年一番のおめでとうを祝うことができる、これはチャンスでもあった。
<End>
>Post Script
>イベントに新刊の誕生日本を発行する為に一日遅れてしまいましたが、恒例誕生日更新です。
>中身入れ替え。外見は子シュラトに中身はガイです。
>今年10月新刊の誕生日ネタとしては、こちらの方が先に出ていたのですが、本の方はクウヤではなくダンとラクシュが中心でした。
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